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「宗派なし」なのに19宗派が守る寺——覚王山日泰寺、お釈迦様の遺骨と7月21日の縁日

「宗派なし」なのに19宗派が守る寺——覚王山日泰寺、お釈迦様の遺骨と7月21日の縁日
目次

名古屋・千種区の地下鉄覚王山駅を出ると、坂の上に向かって参道が延びている。両脇には洋食店、古着屋、話題のパティシエのケーキ店——雑多な商店街の先に、山門がある。

扁額には「日泰寺」。

「宗派は?」と尋ねると、「無宗派です」と返ってくる。

寺院に宗派がない——これは日本仏教において、ほとんど前例のない状態だ。


タイ国王からの贈り物

1896年、インドのピプラーワーで行われた発掘調査で、一つの壺が見つかった。壺には「これは釈迦族の、師(ブッダ)の聖なる遺骨の器である」と刻まれていた。仏舎利——ブッダ本人の遺骨——の発見は、世界中の仏教徒に衝撃を与えた。

発掘を主導したウィリアム・クラクストン・ペッペはインド政庁に報告し、インド政庁はその一部を当時のシャム(現タイ)国王・ラーマ5世(チュラロンコーン)に贈呈した。ラーマ5世は分骨の一部を、同じ仏教国として交流のあった日本に贈ることを決めた。1900年(明治33年)、仏舎利が日本に届いた。

問題はその後だった。——どの宗派に安置させるか。


19宗派の解法

当時の日本仏教は、宗派ごとに強固な縄張りを持っていた。天台、真言、浄土、浄土真宗、臨済、曹洞、日蓮——各宗派は独自の教義と本山を持ち、互いに一線を画していた。

外交的に贈られた「お釈迦様の遺骨」を、一つの宗派が独占する。これは政治的にも宗教的にも不可能だった。

出された答えは「どの宗派にも属さない寺院を新たに建て、日本の仏教全宗派が共同で管理する」だった。

1904年(明治37年)、覚王山日泰寺が創建された。「覚王」はお釈迦様(覚りを得た王)を指し、「日泰」は日本とタイ(泰国)の友好を意味する。

現在も日本の19の仏教宗派が、3年交代で住職を輪番で務めている。天台宗の管長が任期を終えれば、次は真言宗の管長が、そのまた次は禅宗系の管長が——この寺の住職となる。「無宗派」ではなく、正確には**「全宗派」**という状態だ。

日本の仏教宗派がどのように分かれ、それぞれどんな世界観を持つかは、ブログ記事「禅・浄土・天台・真言|鎌倉仏教から今日まで、宗派の世界観を比べる」で詳しく解説している。19宗派の輪番という制度の意味を考えるとき、各宗派の違いが浮き彫りになる。


毎月21日の縁日

日泰寺の縁日は毎月21日に開かれる。

「21日」は弘法大師・空海の月命日に由来する。空海が承和2年(835年)3月21日に入滅したことから、真言宗では毎月21日を「御影供(みえく)」として重んじてきた。この習慣が庶民に広がり、縁日(神仏に縁のある日に立つ市)の慣行として定着した。

日泰寺の縁日は名古屋でも有数の規模だ。早朝7時から参道に露店が並び、地物の野菜・果物、鮮魚、乾物、漬物、生花、陶器、古道具が揃う。参道はこの日だけ歩行者天国となり、近隣の住民から遠方の参拝者まで多様な人が集まる。混雑のピークは9〜10時。早朝に来て参拝してから市を回る流れがよい。

2026年7月の縁日は7月21日(火曜日)


御朱印

日泰寺では通常の御朱印を授与している。「仏陀」「覚王山」などの文字と印が入った書置きが基本だ。

住職が3年ごとに宗派をまたいで変わるため、御朱印の書風や印の意匠がわずかに変わることがある。同じ寺院の御朱印でも、住職の交代によって変化が生じるのはこの寺固有の現象だ。複数回の参拝記録を御朱印帳に重ねれば、宗派の輪番の痕跡を見ることができる。


超宗派という問いかけ

日泰寺が示すのは、宗教的な問いへの一つの答えだ。

日本の仏教は宗派によって教義も修行も異なる。禅の公案修行と浄土真宗の他力念仏は、同じ「仏教」の名の下に並ぶにも関わらず、実践としては大きく異なる。その差異を、日泰寺は政治的判断によって一時停止させた。

宗派の違いを超えた共通の基盤は「お釈迦様の遺骨がここにある」という事実だ。教義の解釈が分かれても、誰のものかについては議論がない。

19の宗派が3年ごとに住職を交代しながら守り続けるこの寺は、日本の仏教史における実験場でもある。宗派の境界線がどこまで流動的になれるかを、120年以上かけて実証し続けている。


参拝情報

  • 所在地: 愛知県名古屋市千種区法王町1-1
  • アクセス: 地下鉄東山線・覚王山駅1番出口から徒歩8分
  • 拝観時間: 5:30〜16:30(年中無休)
  • 拝観料: 無料
  • 縁日: 毎月21日
  • 御朱印授与: 境内納経所(書置き中心)

参考


画像: Nittai-ji (Chikusa-ku, Nagoya) by Hyppolyte de Saint-Rambert, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

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